2015/1/16
二〇一四道釣記 その壱


社員A「えーっと、これは要るな。あと、これも効きそうやな。」
自分「ちょ、ちょっとそれは多いんじゃ・・・」
社員A「せっかくやからな〜。」

ケースにポイポイとルアーを入れて行く社員A氏を見ながら焦る自分。

「ルアー貸すから取りに来て。」
と言われて準備の進まぬ 出発直前、
sumluresを訪れた自分に託された小型ボックス一杯の精鋭達。

更にもうひと回り小さなボックスが手渡され、
社員A「それと・・・、これは根掛かりしない様な、
地形把握してるとこで使って。絶対に無くさんといてな〜。」

その中には、初めてsumluresを訪れた時、
膨大な数のルアーが山積みにされた大机の端に見つけて
瞬時に (コレとコレは絶対に行ける・・・)
と思っていた2本も入っていた。

加えて「使えるとこあったらコレ使って」 ・・・と、Light Trip G52。
以前、ガイド補修を申し出て預かった時にテストをしないと心配という理由で
60〜80クラスの魚多数を自在に操った、
“昨今のマテリアルや製法 云々なんだそりゃ”
の正しく自分の腕の延長ロッド。 
しかしこのロッドは使用歴があるのでテストしなくてもいい。
出番はあそこだな。いや、あの辺りも行けるか。
楽しみが増えたな〜。

急ぎ家に戻り、玄関前に着けた車の後部へどんどん荷物を放り込んで行く。
結局いつも通りギリギリ迄掛かってようやく家を出る。
準備した物は

・書き込みがかなり増えた5万分の1地形図10枚
・歯型でボロボロの精鋭達
・まだ傷も無いSUMLURE軍団
・ロッドとリール
・擦り切れ気味のオイルドジャケット
・頑強一点のシューズ
・そろそろ限界のウェーダー
・その他諸々がお供。
携帯・GPS・事前情報一切ナシ。

己の直感を信じるのだ。

翌朝から船内で準備を始め、自分の主力ルアーに一通り目を通した後は、
ベッドスペースにsumlure達を並べてじーっと見ながらしばし考える。
下船迄の時間とフックのスレッド巻き&交換に掛かる時間を照らし合わせると、
全てのフックを作製するのは到底無理。
よし、5本程度に絞って、ある程度のウェイト調整もしてしまおう。

深底タッパーに水を汲んで来て、
トレブル装着時のルアー自重を1/10g単位 で計測して
フック作製後に再測定と水に入れて姿勢調整。
数本完成。
あとはポイントでその時の流速・水量 に合わせて調整。
残りの時間は仮眠の暇も無く、ひたすらフック単体の増産。

下船の少し前に船内のBS放送で、
あの魚の特集をしていたのでスレッド巻きながらしばらく鑑賞。
以前に見た事がある映像だったのと、
「モンスターはあんなもんじゃないんだよ・・・」

9月23日午前、気温が少し上がって来た。
この場所は進入経路から川へ出た付近は攻めた事があるので上流側へ探索する。
自分の場合、予備知識が全く無い為か、
いつも他の人達が入る反対側や少々外れた地点に入ってしまう傾向がある。
だからまた遠回りをしてるのかもしれない。
適度に攻めながら途中である事に気付き、
やはりこの一帯は大型魚が潜むエリアだと再確認する。

しかしかなり太陽が照りつけて来て気温が急激に上昇しているのと、
灰色掛かった濁りが強くなって来たので一旦切り上げる。
途中、誰かショートカットしようとして迷子になり右往左往した踏み跡がある。
方角が少しでもずれると帰れなくなる場所もあるので
他人の踏み跡はあてにしない様にしている。

am10:50
車に戻り、 ジャケットの中が汗でビショ濡れなので半袖シャツ1枚になる。
水温計の代わりにと家を出る前に玄関脇から持って来た温度計をブッシュ脇に置くと、
気温29.5℃。

GAS補給のスタンドで、この地域の最近の天気を聞くと、
昨日は酷い大雨に加えて大粒の雹が降っていたらしく、
上流側で山崩れもあったらしい。
少しおかしな濁り方の原因が分かった。
橋の上から水位を確認すると、減水傾向なのが分かる。

am11:57
水位が急激に上がった時の為に水中の地形を確認しに更に下流ポイントへ。
濁りが追い掛けて来ているが、まだ大丈夫なレベル。
水位 はやや低い。
これ以上減水するとまずい。
下流側へ移動しながら探り、
元の地点近くに戻るとフライマンがやって来たので少し会話しつつ、
お互いに影響しない距離をおいてそれぞれ違うタイプの流れを攻める。
ここに来る途中の上流域は泥濁りだったらしく、
釣りになるのは濁りがやって来る今日の夕方迄かも等と話してると
キャスト後すぐにサケの猛攻が始まる。
「このポイントならこれだ」と選んだMF-70CWが、
オス・メス関係無く猛烈にアタックされる。
通常ならミノーをローリングさせると
ゆったりと口を使って数回バイトしてくる事が多いが、
海に居る時の高活性時の様に、 直線的にガツッと一気に銜えに来る。
ロッドを送ってテンションを抜き、なんとかフッキングせずにやり過ごすが、
数匹どうしても掛かってしまった。
他のルアーに交換、異常なし。
MF-70CWに戻す、サケ来過ぎ・・・。

9月24日

良くも悪くも無い状況。
気になるのはこのポイントの重要な要素の
岸からせり出した木が切断されて無くなっており、
魚が常時寄り付き難くなっている。
釣座確保とキャストの為に誰かが切ったっぽいが、
結果的にポイント潰しをしていると思う
(他にも同様になってるポイントがある)。
砂の堆積で昨年よりも底が浅くなっているのと、水位やや足らず。
見切りをつけて、戻る途中でキノコ採取。
ラーメンに入れて昼食。

昼食後、少しタイプの違うコースへ。
ここは自分が初めて納得の行くサイズの魚を釣った地域。
場所によっては透明度が高い所で
浅瀬を猛然と突進してくる迫力のある魚を見れる。
思い入れのある地点の前に、まだ入った事の無かった区間へ。

水辺へ降りる手前の土手状になった高い位 置から見ると、
核心部下流の浅瀬中央に40〜50クラスが定位している。
F90で遠めから様子をみても反応しない。
少し考えて、手前障害物付近で間を取って魚に動いてもらう事にする。
思った通 り、 一度姿を消したと思ったら
水面近くでヒラ打ちさせたF90を下から突き上げた。
水深がかなり浅いのと、ラインテンションが掛けられない、
流れに対して無理な角度 のトレースだったのでフッキングは無理。
もう1匹居そうなので上手の少し淵になってる部分から誘い出してみる。
思った通 り70クラスが少し迷ってる風の泳ぎで出て来る。
太陽光の角度がちょっとまずいので、
後で上流側から攻める事にして移動。

魚は着いてるけれど出すのは難しいポイントへ。
ここは以前、斜下からスウッと出て来たかなりの大型が
目の前でリーダーまで一瞬でスポッと一口にしたのにフッキングせず、
口からルアーがスル〜ッと抜けた事もあるポイント。
工事で片側の岸辺が様変わりしていて、出すのはちょっと厳しそう。
プール状になっているので、産卵が終ったサケが少しだけ居る。
水量まずまず。
何度も魚を出しているポイントなので、
出る時は絶対にここ、というコースをトレースするが反応が無い。
こういうポイントの魚は、
自分にとって捕食に適した条件が揃わないとまず喰わない。
何日でもじーっと耐えて、条件が整った途端に急に動き出す。
30cmも潜っていれば姿も見えないので、居てもこちらからはわからない。
地形が変わって定位 する場所が変わったのか?。
遠巻きに対岸へ渡り逆方向から攻めるものの、
岸辺が変わり過ぎていてどうも違う。
やはり最初の立ち位 置へ、と川の中から対岸に戻ろうとすると・・・
「あぁ、やっぱり。」
流れが1/3に絞られているので、慌てても転倒しては余計に危険。
流れにまかせつつ体を2〜3回程回す。
ロッドを岸に投げようとして、借り物のLight Trip G52だっ たのでやっぱりやめる。
流されるスピードを少し落とそうとして岩を片手で掴みながら、
「この下はもう少し攻めたいなぁ・・・。」と思ったので体を水平にして、
いわゆるバタ足に近い姿勢で腕の力でファイト1発的になんとか脱出。
ベルトでかなり浸水対策をしているのでそのままでも問題ないが、
気温が下がってからでは厄介なので、
シャツとパンツ以外を干しながら少し休憩。
近くを走る車から大層不思議そうに見られている。
あー気持ちいい、と思っていると急に風がゴッと吹いて一気に寒くなり、
干してた物が飛んで行った。

この夜は生ホタテとホタテ投入ラーメンで
質素なのか豪華なのかよくわからない晩御飯にする。

寝る前に明日の事を考えているとフロントガラスにポツ、ポツと水滴が。
1人ではしゃぐ。
雨の降り方が気になってなかなか寝ようとしない。

9月25日

am5:30起床。
弱い雨が降っている。
状況はこの後少しは良くなる筈。
今日、明日で勝負をかけるかどうか思案。
7:00から水量 が増えると有効な地点へ数カ所移動。

途中、ワイパー最速でも雨で前が見えない時も。
水位 と濁度の変化から、自分が最も勝負するべきポイントの様子を見に行く事に。

到着するやいなや、ドアを開け、キッと川を一睨み。
力抜けてこける。
ぼ、ぼくの必殺ポイントがっ・・・。
ポイント消失。
去年、ちょっとイヤな予感はしていたけれどこんなに早くこんな事になるとは。
さてこれから何をするのか、
と視界の中の雲の様子と遠くの天気を360度見渡して熟考する
(見える範囲だけでも空模様はかなり違う)。
あの方角に雲があると言う事は昨日から充分な雨が降り続けていて、
下流に当たる地域は晴れているから、直行すれば・・・間に合うかな?。
移動途中で水補給しつつ、
天気を見ながら何をどうすれば良いのか組み立てる。
途中、違う水系を橋の上から見ると通 常は「魚いません」の流れが
「魚けっこういてますよ」になっている。

まず確認すると、自分が今迄見た中で最高の状態が出来上がっている。
この状況だと、このエリアの最大クラスに近い奴を含めて2〜3匹はいるな、と予想。
さて、ここでは超至近戦もある事と、
社員A殿の期待もあるので迷わずLight Trip G52 を選択する。
肝心の弾薬は・・・。
SABEL SUMが「なぁ、わいを使うてくれや・・ ・」と訴えている。

通常よりも流れの筋が増えているので魚の定位位置が絞り難い。
ここに1本、そこに1 本、あそこに1本、
いや、去年他の場所であった様に、
2〜3本がダンゴに折り重なって待機中か・・・?。
でもここは流れに対してどうしてもクロス気味しかトレース出来ないので
一瞬勝負になる。
それに流速も通 常よりも速く、魚に有利でこちらに不利。
太陽光の強さと角度、濁度と水面の波立ちからしてこの辺りか・・・?。
鋭く遠めにSABEL SUMクロス発射。
着水時にサミングで少しバウンドさせて「ピシャシャッ」 と飛沫を上げる。
間を全く置かずに即流れに乗せる。
下流方向に行き切る前に、使う流れを選んで水を噛ませ、水中ダイブ。
あ?思ったよりも潜行浅い。
ホントの水 面。
しまった、この水系とテスト時の水系では水の比重が違うのかも。
一時撤退気味ではあるが水面 に航跡を出す様にリーリングする。

ピックアップの一瞬後、
水面がうねったと思った途端に“ぶわーーーーーん”と 大きく揺れて、
手前から向こう側へ“ザバーーーン”と消えた。
少し赤みの残ったオス。
80クラスか?。
見切られたのではなく、やはり航跡に反応させてしまった。
しかも今の出方からすると、攻めるにはちょっと厄介な所でスタンバイしている。
案の定、即座にその地点に投入しても、
流れの方向と要調整のせいか、SABEL SUMが 威力発揮出来ない。
魚は絶対に元の位置に戻っている。
作戦変更。

では、F90装填。
かなり調整・熟成して今が散り時、違う、咲き時の筈。
F90の強みである自重を使って逆ハンドでピンポイント直撃。
直アップの中を鋭く潜行、次の流れとの境で一瞬ヨレる地点でコンマ数秒緊急停止、
ド派手トゥイッチ一閃。
“ズシーーーン、ズ、ズ、ズズズ”
まずい、少し深めで反転喰いさせてしまった。
水中でうねりまくっている。
首振りが始まる前にリフトさせようとすると、
すぐに 水中でピーーーンッとフックが外れた。
完全にテール喰いの浅掛かり。
ロッドにドスンと衝撃が来て
全てが止まったみたいに錯覚する様な喰わせ方をしないといけない。

しかし今の喰い方、待ち伏せしたり追尾して隙を伺う喰い方ではない。
先を争って る時の喰い方。やっぱり複数居る。
ほんの少し間を置いて、今度はポイント核心部の下手をクロス〜ダウンクロスで、
濁度が増している為20cm刻みで手早くチェック。
水の抵抗からここだ、という地点で素早く大きめのヒラ打ち。
先程とは違う感触のバイト後、
“グィ、グイ、グイ、グ〜〜〜ィ〜〜〜〜グイグイグイグイーーー”と
イヤイヤする様に抵抗を始める。

おそらく60〜70クラス。
少し向こうも困っている様子が落ち着くと、
水流に乗って下流方向へ頭の向きそのままで後退を始めた。
反転して下流へダッシュされるとまずい。
ヒットの瞬間から水流の影響もあってLight Tripはバットまで曲がったまま。
この場所では通常スピニングだと8ft.、ベイトなら6.6ft.を使っていたが、
5.2ft.だと腕を延ばしてロッドの一部と捉えて使わないといけない。
少し自分正面 辺り迄魚を移動させた所で首振りと大暴れが始まった。

5.2ft.の短さを活かして、
新体操のリボン競技のスロー再生の様に
ロッドを魚の動く向きに合わせて2回、3回 と回して行く。
いつも寄せの過程で数回大きく魚を回して円周を縮め切った所で
手前に引いてランディングするが、
Light Trip G52は流れのきつい至近戦だとこの動作がやり易い。

反面、社員A氏が徹底的に使い込んだ状態につき柔軟性が増しているので、
魚の動く方向に合わせてブランクスが追従して行って
上向きに付いているガイドが下向いたり横向いたり。
耐えながらそれを見て、「あぁ、このロッドはあの感覚だな。」と、
小学生の頃に短いヘラ竿を使って25〜40cmのマブナを毎日釣り続けていた記憶が蘇った。

個人的には釣りは棒の片方に糸と針が着いていて、
もう一方を馬鹿が持っているの図式だと思っているので、
過度の剛性やネジレ対策等とは違う視点で組まれているこのロッドは使い易い。

肘を突き出し、急な突っ込みに膝を折って魚と動きを合わせて行く。
アクションも一見ライトタックルなのに、鋭い背筋が通 っている様な不思議な感覚。
ドラグフルロックで強引に魚を抜いてしまうのでは無く、
必要充分な性能はあるけれど、
あとは自分の身体の使い方次第だぞと言われてるかの様。

10kgクラスも出て来る魚相手だとこの細いブランクスでは一般 的には厳しそうだが、
以前社員A氏が「ソリッドカーボンやから、こんなん踏んづけても折れへんで!!ほ れ、ほれ!。」
と言いながらロッドを上から踏んづけてピョンピョン跳んでくれた。
絶対に折ってやろうと思えば折る事も出来るとは思うが、
こういうのはもう少し太めのピュアグラスぐらいだと思っていた自分には
このロッドの感覚は新鮮だった。
かなりの流速なので予想通りバット迄使い切ったけれど、
しかし過度に魚を弱らせる事もなくロッドの短さを活かしてスムースにネットイン。

残念、口角にフロントフック、とは行かず上顎付近のテールフッキング。
今迄はテール喰いでも口角付近に掛けていたが、
F90の動きの多彩 さの影響でフックが暴れ気味なのか、
魚がバイトするタイミングを掴みづらくて後方から執拗にバイトし続けているのか。
動きを殺すのはNGなので、本日終了後にフックを改善する事にしてもう1 本を狙う。
最初の奴はもう無理として、あと1匹居るとするなら・・・あそこだ。
一見「何で そこなの?」という箇所。
低水位でも定位出来て、且つ今の水量だと核 心部迄一気に飛び出して来れるスポット。
扇状に流してコースを決めて、潜行させつつ送り込みつつ移動させつつ
魚が飛び込む間を作って行く。
よし今だ、とバイト誘発の為にスウッとロッドを上流側斜上に動かすと、
何かおかしい、抵抗が全くない。
ロッドの先端とルアーの真ん中ぐらいでラインが切れている。
フックが魚に触れた感触は無かったので
おそらくF90(サスペンド〜シンキング仕様)は流れて行ったか。
切れたラインの端が見つからないものかと
一応ロッドの先端部でその辺りを探ってラインの切れ端を探して見るものの、
この流れの速さでは見つかる訳ない。
本命エリア凱旋の際には活躍をと、じっくり素早く育てていったF90。
勿体無いというよりはバルサ製であるとはいえ、
自然の中に無かった物を残してしまう事が気に掛かる。
即座に車に戻ってルアー回収用の長柄磯ダモを持って来て
そこら中を引っ掻き回して探したいのに、
いや、まだこのポイントを潰す訳にはイカンという欲望に負けてしまった。

社員A:「絶対に無くさんといてな〜。」

・・・見事に無くしました。

その壱 完

Author : Tokkun

ロングバージョンを御覧になりたい方はこちらをどうぞ